ウェインは不機嫌だった。その原因は明らかで、この隣を歩く黒い亡霊だ。
二人は数日前にウェビトスのクス・テクアラードに入った。クス・テクアラードは人に溢れていた。
ウェインが聞いた所によると、レグオンとアイゾグレンド、そして他の小国からの難民が流れ込んでいているらしい。その人込みの中を、二人は歩いているわけだ。ウェイン一人ですら相当目立っていた。それなのに、この長身の黒い亡霊だ。かなり目を引いた。
どうしようもないくらいの視線にあてられ、それだけでも不機嫌の原因になるというのに、
「なぁ、ウェイン、行こうぜ」
黒い亡霊の軽薄な声が、ねだる。
「昼間から、馬鹿にしてるのか?」
「お願いだよ、こっちでは俺が食べられるものも少ないんだから」
この黒い亡霊が一言一言発するたびに、ウェインの額に青筋が煌く。
「む、むぅ」
それを宥めようとする小さな魔造生物ファム。足元を歩いていては踏まれそうなのでウェインの肩に乗っている。なおも黒い亡霊はねだる。
「お願い!」
「昨日も、一昨日も、その前も!」
ウェインが、人目も気にせず叫んだ。ヨミが困ったような顔をする。何が始まったんだと人々が見る。
「一日一本だと? ふざけるな! 魔酒がどれだけ高価かわかってるのか?」
「いや、でも、やっぱみんな食べなきゃ生きていけないわけで」
ウェインの怒りの原因、それは魔酒だった。
魔酒とは、かなりの魔法エネルギーを含む酒で、一般人のとても飲めるものではない。匂いを嗅いだだけで酔ってしまう。魔法を使えるもので物好きや、エネルギー補給に仕方なくで飲む者もいるが、魔酒はかなりの高額である。一本で一週間は楽しく楽に暮らせるだろう。
黒い亡霊ヨミは、現界で魔酒しかまともに食べられないと言うので、ウェインは仕方なく餌を与えてやっているのだった。
だがしかし、この図々しい亡霊は一日一本のペースで開けるのだ。ウェインの懐が急激に淋しくなっていく。

