幻影都市の亡霊

「しかし、ヨミは名前も告げていかなかったな」
「……王の器ですの?わたくし興味ありませんわ。でも、ヨミ様も相変わらずですのね、お父様に名前も告げずに行くなんて」

 ヨミとラムは仲が良かった、というより、ラムがとてもなついていた。ラムはヨミが行ってしまったことが相当面白くないのだ。

「しかし、次の王たる者とはどんな奴だろうな」

〝私の夢を、待たせている人を――……〟

 ウィンレオがラムを見下ろしながら言う。ラムは首を横に振って、

「どれだけ大きな器を持つ者でも、お父様より優れた王になる者なんていらっしゃいませんわ」
「いいや、そんなことは誰にもわからないぞ、ラム」

 ウィンレオは、どこか自嘲気味の笑みで言う。

〝俺は優れた王なんかじゃないんだから。近くで俺を愛してくれた者を傷つけて、そして大切な親友を失ってしまったのだから……〟

 その女性の面影を、強く残す愛娘。それなのに、明らかに漂ってくる、紛れも無い香り――。

「それじゃあ、わたくし行きますわ」

 ぴょこん、とラムは父親の膝から降りた。そしてそのまま王座の間から去っていった。ウィンレオは大きく息をついた。

「迎えに行くと……言ったのにな……。会いたくて……たまらないのに……」

 それでも、ウィンレオは動くことはできなかった。そのことが悔しくてならなかった。
 漂ってくるのは、明らかに愛する人の香りなのだ。もう二度と会えぬと決心していた、あの人の香りなのだ。ウィンレオは、右手でぐっと胸を押さえた。呼吸さえ辛かった。

「ユアファ……」

 口にしただけで、胸が引き裂かれそうになる。それほど愛しい。それほど愛している。