「それと」

 従者が再び口を開く。

「レーテス・フォゲットの者達が動いています」
「何?」

 意外な言葉にウィンレオは気がかりな心を押し込めた。

「現界の動乱に介入した模様です。数日前、アクエム様とアルモ様からの使い魔が届きました」
「ほぉ」

 ウィンレオの口端に笑みが浮かぶ。

「あいつが動いた、か」

 ウィンレオの声は、おかしんでいるような雰囲気があった。自分と違ってあちこちを飛びまわる友を思い浮かべて。

「もういいぞ」
「はっ」

 従者は消えた。ウィンレオの口端の笑みが大きくなる。そのまま椅子に身を預け、天を仰いだ。そして、すうとその眼が細くなった。

「なぁ、セレコス、お前は今、何をやっているんだ? 俺は……意気地なしだ……」

 そう、ぽつんと洩らした。

「お父様」

 声がかかる。ウィンレオは体勢を直し、

「なんだ? ラム、入っておいで」

 すると、ドアが開き、ひょこん、と顔を出した少女がいた。さらりと流した顔の横の毛と、前髪。後ろ髪は二つにゆったりと結っている。その髪の色は薄茶とクリームの混毛だった。とろっとした眼の色は、紫。ドレスを纏った少女はそのままウィンレオのもとまで駆けより、ふぅわりと飛びついた。

「お、どうした」

 ウィンレオは王の顔から父の顔になって愛娘に尋ねた。

「ねぇ、お父様? わたくし、最近、怖いんですの……」

 ラムと呼ばれた少女――ウィンレオの娘だ。
 第二妻の娘だった。

 ウィンレオは膝に乗ったラムの、美しい髪をなでる。母親の面影を宿す娘。死んだ、第二妻の――。