「……」
眼を閉じて、思い浮かぶのは空銀の髪の女性と、クリームがかった薄茶の髪の女性。そしてその二人は、二度と会うことの叶わぬ者達――。心から愛した、大切な人――。
だが、
「……この、匂いはなんだ……?」
男は当惑していた。南より香る、懐かしき匂いに。一時を境に、突如匂いが変わった。二度と嗅ぐことのないと思っていた、彼女の匂い。ここには無いはずの科学の異臭に交じってでさえも、確かな彼女の香り――。
「クロリス様」
声がかかった。クロリスと呼ばれた男は、顔を上げる。
「来い」
いつの間にか、その部屋に黒づくめの男が跪いていた。
「申し上げます、南方アンバルリードより東方に、町が出現いたしました。恐らく、現界より強制的に送られてきたようです。死傷者不明。調べによりますと、現界ファイバ大陸の西方、ワイベルエンより来たものと、考えられます」
「……ワイベルエン、だと……?」
まさか、とは思った。亡霊王クロリス=ウィンレオ=エンドストロールの心の中に生まれた明らかな当惑。クロリス=ウィンレオ、クロリスは王名だ。そして、元からの名が、ウィンレオだった。王という役目以外の場所で、本人はウィンレオと呼ばれたがっているが、呼んでくれる者は少数しかいなかった。
「……彼女が、ここにいる……?」
確証は、なかった。だが、この匂い――。間違えるはずがなかった。あれから、十八年の年月が流れた。一瞬も、忘れられなかった、彼女――。別れてから、二度と会えぬと決心していた。しかし、ここにいる。
「陛下、王の器保持者と、ヨミ様が接触しました」
ウィンレオは顔を上げた。その心に生まれたのは、かすかな期待。
「再び、現界に生まれたのだな、亡霊王は」
〝そして、考えていたよりずっと早く――……〟
「はい」
王の器を持った者――ヨミが感じて、自分が行きたいと名乗りを上げた。ヨミはウィンレオの名で呼ぶ数少ない者の一人だった。
眼を閉じて、思い浮かぶのは空銀の髪の女性と、クリームがかった薄茶の髪の女性。そしてその二人は、二度と会うことの叶わぬ者達――。心から愛した、大切な人――。
だが、
「……この、匂いはなんだ……?」
男は当惑していた。南より香る、懐かしき匂いに。一時を境に、突如匂いが変わった。二度と嗅ぐことのないと思っていた、彼女の匂い。ここには無いはずの科学の異臭に交じってでさえも、確かな彼女の香り――。
「クロリス様」
声がかかった。クロリスと呼ばれた男は、顔を上げる。
「来い」
いつの間にか、その部屋に黒づくめの男が跪いていた。
「申し上げます、南方アンバルリードより東方に、町が出現いたしました。恐らく、現界より強制的に送られてきたようです。死傷者不明。調べによりますと、現界ファイバ大陸の西方、ワイベルエンより来たものと、考えられます」
「……ワイベルエン、だと……?」
まさか、とは思った。亡霊王クロリス=ウィンレオ=エンドストロールの心の中に生まれた明らかな当惑。クロリス=ウィンレオ、クロリスは王名だ。そして、元からの名が、ウィンレオだった。王という役目以外の場所で、本人はウィンレオと呼ばれたがっているが、呼んでくれる者は少数しかいなかった。
「……彼女が、ここにいる……?」
確証は、なかった。だが、この匂い――。間違えるはずがなかった。あれから、十八年の年月が流れた。一瞬も、忘れられなかった、彼女――。別れてから、二度と会えぬと決心していた。しかし、ここにいる。
「陛下、王の器保持者と、ヨミ様が接触しました」
ウィンレオは顔を上げた。その心に生まれたのは、かすかな期待。
「再び、現界に生まれたのだな、亡霊王は」
〝そして、考えていたよりずっと早く――……〟
「はい」
王の器を持った者――ヨミが感じて、自分が行きたいと名乗りを上げた。ヨミはウィンレオの名で呼ぶ数少ない者の一人だった。