幻影都市の亡霊

「……そんなに、俺を王に据えたいか?」

 ウェインが尋ねた。

「そりゃあ、もちろん。だが、今のままのお前じゃ駄目だな。俺は、導かなくちゃならない。お前は導きがいがありそうだ」

 ヨミがへへっと笑う。

「……このままじゃ、駄目? どういう意味だ?」
「そんな弱いままのお前じゃあ、全然駄目だ。器がでかくても、精神が弱い」
 ヨミの言葉に、ヨミを信用しかけたウェインの闘志が燃え上がった。
「弱い、だと?」
「ああ、弱いね。今はデコピン一つで倒せるよ」

 ヨミが言う。ウェインはさらに、怒った。弱い、となど、どうしてこの亡霊に言われなくてはならないのだろうか。

「いいか? ウェイン」
「……」

 ヨミは真直ぐウェインを見た。ただ、返ってくる眼光は穏やかなものではなかったが――。
 ファムはファムで、逃げる準備をしてウェインを見ていて。

「王は、器だけじゃない。精神も強くなくてはならないんだ。俺は、そういうところまでお前を成長させたいんだ」

「俺は、王になど、ならない」

 ウェインが、短く、端的に、低く、言った。

「それは、お前が自分の弱さから眼を背けてるんだ」
「……っ」

 ヨミの言葉は、いちいちウェインの心に突き刺さる。

〝俺が、弱虫だって事くらい、わかってるさ……〟

 ウェインが、自嘲気味に笑った。

「……俺はウェイン=ストロールとして見られた事は、ほとんどない……」

 小さく、呟く。

 ヨミはその吸い込まれてしまいそうに深い黒の瞳で、輝く髪を持つ少年を見た。

 輝く容貌を持つ、心の壊れた少年を――。