幻影都市の亡霊

「だ、だからそれ……怖……」
「誰が許した? 俺の金を使うのを? ええ? 言ってみろ、このクソ亡霊」

 ウェインがヨミにつかみかかろうとするが、如何せん実体が無い。ヨミはしたり、と思った。が、

「そうか……それなら、意志の刃〈ウィルブレード〉ッ!」

 完全に据わった眼で、ウェインはそれを握った。どこからとも無く出現する刃――。ヨミは蒼白となって、

「だっ、ごめんっ、ごめんなさいっ!」
「……ふん」

 ヨミが必死で謝ると、ウェインはそれをしまった。ファムが頃合を見計らってウェインの寝台によじ登った。ウェインは薄く微笑んで、ファムをなでた。

「はぁ……夢じゃ、ないのか……」
「現実逃避は良くないぜ、美少ね……」

 ヨミがへらっと言った瞬間、ウェインはそれを睨みつけ、

「二度と言うな」
「はひ……」

 小さくなったヨミだった。いや、実際に小さくなって見える。それにウェインは、顔を緩めて、

「ほぉ、それ、面白いな」
「むぅ」
「そ?」

 ヨミがへらっと笑う。いかにもいい加減そうな笑み。大きさがそのまま元に戻る。

「さて、そんなことより……お前、亡霊になれ」

 ヨミが真顔で言った。ウェインが目を見開き、

「なっ……できるわけないだろ……っ?」

 すると、ヨミは残念そうに、

「そっか、OKもらったらラッキーだったのに……。残念残念」

 大して残念がってないように言う。ウェインはふるふると首を振って、

「おい、ヨミ。町はどうなるっ?」

 ヨミは真っ黒な瞳で異色眼を見返し、

「残念だが、現界からは干渉できない。送るときは現界から思いっきり力任せに押し出したってところだろうが、元に戻すには、同じように、今度は幻界から押し出さなきゃならん。要するにとりもなおさず幻界に行かなきゃならんってことだ」

 ウェインが愕然とした。