幻影都市の亡霊





「……ん……」

 ウェインが、人工素材の安っぽい寝台の上で、身じろぎをした。それを覗き込む、今は実体の無いヨミと、友達を心配するファム。

 ウェインが気を失ってから、ヨミはひとっ飛びで、ワイベルエン国の西果ての町にいた。
 今までいたのは、そこよりもう少し東寄りの町だった。その途切れた辺境が、幻界に連れ込まれたという――。

 ワイベルエンはサティフの大地の、西果てだ。三つある大陸のうちの、最西の大陸がファイバ。中央東寄りのファイバよりも大き目の大陸は、ウェビトス。
 北東に位置する、もっとも小さな大陸は、フォゲティアだ。フォゲティアは一国ほどの大きさしかなかった。ファイバに大国が三つ、小国家が四つほど。ウェビトスには大国が六つ、小国家は十に及ぶ。

 フォゲティアは、これだけ科学の進歩した今でも、よくわからない土地であった。それは、神話に近いとまで言える。どうしても、フォゲティアに辿り着くことができないのだ。
 存在ははっきりとしているのに、どうしてもその場所にはいけないという、曰くつきの場所だ。目には見える。なのに、いざ行こうとすると、艇が遭難したり、何故かいつのまにかUターンしていたり――。よって、フォゲティア〈謎の大陸〉なのだという。

「……っ」

 ウェインが飛び起きた。そして、辺りを見回す。そして、ヨミと眼が合い、顔をしかめた。

「おいおい、ご挨拶だな、ウェイン!」

 ヨミがへらへらしながら言うと、ウェインは鋭い目つきで、

「誰の金だ」
「へ?」

 ヨミが目を丸くする。

「誰の金だっつってンの。ん? ここ、宿だよな? 誰の金だ?」
「……」

 ヨミは、視線を泳がせながら、ウェインの持っていた黒い鞄を指差した。それを見届け、ウェインはすぅっと眼を細めた。