幻影都市の亡霊

「今日は、さんざん。折角貴方がいると思った町をあっちに連れ込んだのに。貴方みたいに大きな器、なかったんですもの。――力使った意味がないし、ここでヨミと戦うのはさすがに不利だわ。またの機会って事になるわね……」

 どこまでも、冷たい声だった。そして、すぅっと消えた。ウェインは緊張しながら、その手にはまだ意志の刃〈ウィルブレード〉が握られていて――。

「……今のは……」
「そういうこと、って事だ。お前の元にはばんばん暗殺者が送り込まれるだろうよ」

 がくっ、とウェインの力が抜けた。その瞬間、光る刃は消え去った。

「うわっ」

 慌てて支えようとするヨミ。が、彼には実体が無く――。

「むっ」

 ファムが大きくなって、友達の体を支えた。ウェインは気を失っていた。ヨミはふむぅと呟くと、なにやら目を閉じて、ぷつぷつ唱えた。すると、ほわりとヨミの身体が光り、すぐにその光は消えた。

「む?」
「よし、もういいぞ?」

 ヨミはウェインの身体を抱えた。ウェインは完全に気を失っていた。

「オーバーヒート、ってやつかな?」
「む」

 小さくなりながら、ファムは恨みがましい眼でヨミを見た。ヨミは困った顔をして、

「悪いな、お前まで巻き込んで……ファムだっけか? 宜しくな?」
「む」

 友達を抱える亡霊に、ファムは偉そうに首を縦に振った。

「さて、と。これ、どうするよ。俺まだ、現界詳しくないんだな」

 一年も何をしていたのだろうか。

「むぅ、むむぅ」

 ファムが言った。それに、ヨミは真顔で、

「ふむ、そうか、なるほど?」

 そう呟くと、ファムがヨミの肩に乗り、ヨミが右手を振った。そのまま、黒い霧が現れて、その森には誰もいなくなった。