幻影都市の亡霊

「くそ……またか」
「なんだ……?」

 ウェインが尋ねると、その瞬間、なんとも言いがたい雰囲気がその空間を包んだ。ウェインが身構える。

「逃げても無駄、ヨミ――」

 澄んだ、女の声が聞こえた。ウェインは辺りを見回す。しかし、何もいない。

「なんだっ……?」
「上よ、王の器を持つ少年」
「っ」

 ウェインは、反射的に上を見た。そこに、美しい女がいた。空中に、浮いていた。白い長髪が、ふわりと漂っている。実に、冷ややかな笑みを浮かべていた。

「ツキミ――……」

 ヨミが、なんとも言えない声で呟いた。苦々しい面持ちで――。

「誰だ……?」
「私? 私、ツキミ。宜しく、ウェイン=ストロール。そして、さようなら」

 白い女が、にたりと笑った。それが、不気味だった。どこまでも、白い女だった。さながら、ヨミの対極に位置するような――。

「っ」

 ウェインは、次に何が起こるか、悟った。

「ちっ……意思の刃〈ウィルブレード〉っ……!」

 次の瞬間、ウェインは光る刃を握っていた。ただそれは、そう見えるだけの――。そして、それでウェインは、ツキミの放った爪を斬り落としていた。

「へぇ、意志の刃〈ウィルブレード〉? やるじゃない。さすが、王たる者ね。でも簡単にはやられてあげない」

 いつの間にかツキミはウェインの背後に回る。ウェインはその動きについてはいけなかった。その時、後ろで空間が弾けた。

「うわっ……」
「きゃっ」

 振り返れば白い亡霊が吹き飛ばされ、間に割って入ったヨミを憎々しげに睨みつけていた。