幻影都市の亡霊

「どうした、美少年。そんなに意外か? 自分が王たる器の持ち主だって事は。しかし、あいつも力の使い損だな。あっちでゆっくり選別する予定だったんだろうが、こいつはここに残ってるってわけだ」

 そんな、黒い亡霊の軽口も、少年――ウェインの耳には届かなかった。いや、届いてはいるが、一向に理解できないでいるのだ。

「むぅ……?」

 ファムが心配そうに、友達の顔を見上げる。

「やっと会えた、王となる者、俺の夢」

 黒い亡霊がウェインの肩に触れる。触れた感覚はないのに、何故か触れたというのはわかった。ウェインが未だに事態を拒絶している脳に鞭打って黒い亡霊を見る。

「さぁってと」

 黒い亡霊が立ち上がった。そして、ウェインを見た。

「俺は、お前を、絶対に王に導く」
「ばっ……馬鹿なことばっかり言うな。俺が、亡霊王だと?なんだそれは?お伽話も大概にしろよ」

 震える声で言うウェイン。しかし黒い亡霊はくっくと笑い、

「もう、遅いな。お前の存在は知られている。王の器を持つ者ってな。お前の力が解放されたのは、お前が十六んときだ。俺でさえ、見つけるのに一年かかった。だが、俺が見つけられたって事は、他の奴らもお前を見つけられるって事だ。現に、実力行使を見せたのもいるしなぁ……」

 そう言って辺りを見回す。何も無い、その場所。

「……どういう、事なんだ……?」

 ウェインは、呆然と黒い亡霊を見上げた。

「俺は、お前を生かして亡霊王に据えなきゃならない。死んだら元も子もないからな」

 すると、黒い亡霊の顔色が変わった。ウェインもそれに気づき、

「どうした……?」
「……来る……」

 黒い亡霊は一点を見つめた。遠い、遠い、一点を。するとおもむろに、ウェインの腕をつかんだ。

「いっ……」

 今度は確かにつかまれた感触が在る。痛い。