幻界へ帰ったウィンレオは、真っ先にユークラフのもとへと向かった。赤子を抱いていた女は、哀切の瞳で、ウィンレオを見上げ、だがその顔を見て笑顔で、
「お帰りなさい、ウィンレオ」
「っ……!」
激しい衝撃がウィンレオを打ちのめした。ユークラフは、首をそっと横に振って、
「ごめんなさい……わたくし……遅すぎた。ごめんなさい、わたくし、貴方を支えることができなかったから……。貴方の苦しみを共に背負い、癒すのはわたくしの役目なのに……わたくしは、貴方を拒んでいたから……。でも、良かった。貴方の傷は癒えて、ここにいてくれる……」
王の子を、寝台に寝かせ、ユークラフは去っていこうとした。だが、ウィンレオはそれを引き止めた。
「私はやはり貴女に頼るべきだったのに……」
しかしユークラフにもわかっていた。自分の遠慮と拒絶が目の前の男を酷く傷つけていたことくらい。それに気づくのが遅すぎたのだ。
「貴女はわたくしの前では、お兄様の前のように『俺』にはなれませんでしたもの」
ウィンレオは歯を食いしばり、
「俺は……なんと貴女に失礼なことを……」
俺、という自称を使ったことに、ユークラフは本当に嬉しそうに笑いながら、淋しく言った。
「いいえ、仕方ありませんの。わたくし、怖がりすぎていたんですもの……」
ウィンレオは顔を引き締め、深く頭を下げた。
「すまなかった」
「そんな、頭を……」
「ユークラフ、俺の心の中には今、ユアファという女性がいる」
ユークラフは、頭を下げながら話す男を、そっと見た。