幻影都市の亡霊

「その人は、どんな人?」
「……オークの妹だった。あの人は、俺のことを癒してくれた。なのに、王である俺に遠慮して、本当の名を呼んでくれない。俺は、俺の地位を求めて結婚した妻にはうんざりした、俺の地位に遠慮してしまう妻には心を開いてもらいたかった……。待っていたんだ……。なのに、子供が生まれているのに、ウィンレオとは……」

 ユアファは、この男を哀れだと思った。同時に、どうにかして彼を立ち直らせてやりたいと思った。

「ウィンレオ、貴方は絶対に大丈夫よ」
「…………」
「クロリスと呼ばれても、それは貴方。ウィンレオと呼ばれても、それは貴方。王様と呼ばれても、陛下と呼ばれても、それは貴方なのよ?そうやって、貴方が自分を強く持てばいいの。わからない?貴方は本当は強い人なはずだわ。どうして、貴方が愛している人の言葉の奥にある気持ちに気づいてあげないの?」

 ウィンレオはユアファを見た。

「……結婚したのは、間違いだったのか……」
「え?」
「結婚したのに、彼女はちっとも俺には近づいてきてはくれなかった……。彼女は俺を拒絶する……だから俺は近づけない……」

 ぱんっ

「っ……」

 ユアファはウィンレオの頬を力いっぱいはたいていた。

「自分だけが愛されたいんだと思ってるの? 彼女が近づいてくれない、そんなのは貴方に魅力がないからなんじゃないの? それを彼女のせいにするなんて酷いわ!」

 ウィンレオは首を横に振った。

「じゃあ何よ! それはただの甘えよ? 我が侭よ!」
「そうかもしれないっ……だけど……愛されたいと、近くに来て欲しいと願うことは我が侭なのか?」
「っ!」

 ユアファは、子供のようにうつむいてしまった男を見た。

「誰でも……望むことじゃないか……」

 それは、本当のことだった。

 誰もが望むことだ。誰もが得たいものだ。誰もが感じていたいものだ――。

 それを、望んでいるだけのこの男は――なんて哀れなのだろうか。なんと、自分を孤独に感じているのだろうか――。