幻影都市の亡霊

「貴方の心の歪みの正体は、簡単じゃない……貴方は王になるために無理してる。貴方は王になろうとしてる。でも違うわ。ウィンレオが王なのよ?忘れちゃ駄目よ。貴方がクロリス王なの。クロリス王が貴方なんじゃなくて。無理なんかしなくていいのよ。体裁つける程度で、貴方は貴方のままでよかった。それを無理していたから……。今もきっと同じよ。無理して押し込めようとしてた。ね?見失わないで。貴方は自分を見失いそうになってる……」

 そっと、ウィンレオの頭をなでる。そこで、初めてわかった。歪みのわけが――。

「……人に……人にウィンレオと呼んでもらえなければ、ウィンレオがいなくなってしまうような気がしていた……。いつのまにか重圧が俺を押さえつけていた……」
「うん」

 ユアファはウィンレオの静かな告白に耳を傾ける。

「あそこで、俺のことをウィンレオと呼んでくれる人はオークとヨミだけだった……」
「セレコスは? あの人は貴方をゼロアスと……」

 ウィンレオは首を横に振った。

「あれは偽名だ。王であることを隠して、王宮を出たときに使っていた。あいつは王宮の外の者だから、そう呼んでた……」

 ユアファは嗚咽を続ける男を、見つめた。まるで子供だった。助けを求めて泣いている子供だった。

「貴方は、オークという人やヨミという人に、ウィンレオと呼んでもらっていたはずよ。なのにどうして、それだけじゃあ駄目だったの?」

 ぴくりと、身体が震えた。ユアファがそっと身体を離すと、ウィンレオはすがるようにユアファを見た。

「一番呼んで欲しかった人には、何度頼んでも呼んでもらえなかった……」

 どき、とユアファの心臓が跳ねた。

〝好きな人、かな……〟

 ユアファは微笑んだ。