教師Aは頭を抱えたまま、動かない。
田中は「失敗した」と思った。
これでは先ほどと同じパターンだ。
記憶の糸を掴みかけて、しかしそこで苦しみ出し、記憶にたどりつけない。
そのうえまた「にょーん」なんて言い出したら最悪だ。
「……うぅ…く…」
教師Aは呻き苦しんでいた。
先ほどよりかなりきついように見える。
瞳が完全に泳いでいた。
「…う……思い…出し…たく…ない…」
苦しそうに呟いた。
田中と山下は沈黙する。
悪い考えが二人の頭の中に同じく浮かんでいた。
やはり教師Aにとって、それは思い出したくないことだから思い出せないのだろうか。
絶望に似た静寂が落ちる。
「……いや、だ」
教師Aは子供のように首を振った。
「……ボクのせいなんだ」
また先ほどと同じ口調に戻っていた。
けれど先ほどの子供らしい明るさは感じられない。
「……ボクのせいなんだ……ボクがツレゴだから父さんと母さんは喧嘩して……バラバラになって……エリが泣いて。みんなが寂しくなって…」
肩を震わせる。
ツレゴは「連れ子」だろうか、と田中は理解した。
つまり今の教師Aは本当に幼い頃の教師Aに遡行しているようだった。
つまり、心が子供の頃に還ってしまっているのだ。
そして、その、精神だけは子供に還ってしまった教師Aが今にも泣き出しそうに告げた。
「……ボクのせいで…寂しいの……思い、出したくない…」

