教師Aの授業記録



顔をわずかに赤くして黙りこんだ田中の隣で、山下絵里は教師Aと向きあって続ける。


「――だから、兄妹のてめーとも、もうこれでおさらばなんだよ。

…ああ。やっと、これで晴れてせいせいするぜ」


誰が聞いても清々しく聞こえる口調で言い放つ。

欠点の無い完璧なる演技だ。

ちょっと設定のチョイスだけは滅茶苦茶だという部分を除けば。


こんなので何か変化が起きるのだろうか、と疑念を抱く田中の前でしかし状況は変わった。



――それはまるでバチンと電源のスイッチがオンになったように。

田中にビッタリへばりついていた教師Aの瞳にまともな光が戻った。


「……ちょっ、ちょっと待てぇぃ」


そう叫ぶなり、教師Aは田中から離れ、慌てた様子で山下絵里の方を見た。

口調も幼児風から、わりと普通に戻っていた。


「そんなことは許さないぞ!」


少しおどおどと、挙動不審ながら反駁した。

すると山下絵里は「ああん?」と顎を突き上げた。


「…許さねーだぁ?
んなこと言える権限がてめぇにあんのか?

てめぇとあたいはもう何の関係もねぇんだろが」


「……い、いや。
これは…その、教師として…教育的指導だ。

こんな男と一緒になっても一生ロクなことにならん」


しどろもどろに言いながら田中を指差す教師Aを、山下絵里は鼻でせせら笑った。


「はん。あたいはてめーより男を見る目があんだよ。

こいつはなかなかの男だぜぇ。相当跳ねてるぜぇ?

何せこの”テキサスの暴れ馬”と呼ばれたあたいを二日で落としちまったんだからな」


どこか懐かしさ漂う異名を口にする山下絵里。



……もう設定がワケ分からん。

頭がこんがらかってきた田中はもはや突っ込む元気も無かった。