「……兄さん、兄さん」
駆け寄り、その腕に触れる。
しかし、教師Aは拒むように彼女の手を振り払った。
やっと記憶に手を伸ばしつつあったところで思わぬ行動を取られ、田中と山下は愕然と固まる。
けれど教師Aの様子が、どうやらだいぶ普通と違った。
頭を両手で抱えたまま、ぶんぶんと首を横に振った。
「……嫌だよ。嫌だもん、ボク。思い出したくないんだもん!」
「……………は?…」
田中は一瞬にして氷漬けにされたように凍りついた。
唖然とした空気の前で、教師Aは一人、ぶぅっと頬を膨らませる。
「まだまだ、このままがいいんだもん♪」
語尾に「♪」付きで、ころっと笑顔に変わる。
その表情の変わりようはまるで……
「――にょーん♪」
ぴとっと田中の肩にくっつく。
田中はその時、頭の先から足の爪先まで悪寒が駆け巡るのを感じた。
「ぎょぇぇっ」
顔を青くして、必死に教師Aの手から離れようとする。
しかし教師Aはしつこく「にょーん」と言って絡みついてきて離れない。
「……な、何なんだよコイツ急に。キショ!」
助けを求めるように山下絵里の方を振り返り叫んだ。

