教師Aの眼がより一層大きく見開かれた。
「………妹…」
その眼は何かを確かめるようにじっと山下絵里に定められたまま。
「……私が……兄…」
まるで頭の中から微かな糸を手繰り寄せるように。
「……私が……」
ぽつりぽつりと何度もつぶやく。
田中と山下絵里はただ経過を見守るしかなかった。
どうか、事態が良い方向へ転んでくれることを期待しながら。
「……私は……」
教師Aは額を手で押さえ、苦しそうに表情を歪める。
「……私……いや、俺は…」
確かに記憶の糸を掴みつつある様子に、田中はとうとう我慢を押さえきれなくなった。
「そうだ。思い出せ!思い出すんだ!
あとちょっとだ!」
急かすようについ叫んでいた。
教師Aは「俺は…」と呟いたまま、両手で頭を抱えた。
まるで激しい頭痛に苦しむように目を瞑り、呻く。
「……兄さん!」
そのただならぬ様子を目にし、居ても立っても居られなくなったように山下絵里が動いた。

