田中は一瞬だけ動きを止めて山下絵里を見つめたが、しかしすぐにその手を振り払った。
「……いいわけないだろーが」
苛立たしげにそう言い、教師Aと向きあう。
「正直言うとな、俺はこの馬鹿教師がお前の兄貴だと聞かされても全然信じられなかった」
そう言って改めて教師Aを正面に眺める。
「だってそりゃ全然似てないんだもんよ。
性格も顔も全然。
……でもな。
泣くほどに心配する奴の言葉が嘘だとは到底思えねー」
強く断言し、数歩歩いて教師Aのすぐ前へと近づいた。
「お前は本当にこいつを見ても何とも思わないのか?」
再度山下絵里の方を振り返り、彼女を指差す。
その言葉に、ハッと息を呑む山下絵里と、きょとんと彼女を見る教師Aの視線がピタリと交わり合った。
ほんの一瞬、邂逅のような僅かな時が止まる。
しかし時間はすぐにあるべき元の流れを取り戻した。
教師Aがいつもと変わらない様子で口を開いたのだった。
「……ふむ。
…何とも思わないわけではないが、特別な何かがあるわけでもないな…」
どこまでも平坦でありながら、ゆえに深く胸に突き刺さる言葉に、山下絵里はよろめくように後ずさった。
打撃のようなショックを受け、体も心もとっさに何の反応も出来なかったようだ。
そして、田中は――
何かを言うより先に、身体が動いていた。
やおら教師Aとの距離をゼロに縮めるやいなや、その胸倉に掴み掛かっていた。

