教師Aは薄らと目だけ細めた。


「失敬な…。
馬鹿げてなどいないさ。私はいつだって真剣に物事を考え、真剣に目標へ向かって突き進む男さ」


そう言っておどけるように肩を竦めて見せる。

田中は心底冷めきった瞳で相手を見た。


「…その目標が地球征服って叫んでいるような奴のどこが真剣か知りてーよ」


呆れたふうに言ってから、頭を横に振った。


「って。話がそれちまったが、さっきの質問に答えろよ。
お前から見て、こいつは本当にお前の妹なのか?」


「残念ながら違うな」


教師Aはあっさりと答えた。

そしてどこか遠い眼をして、両手をどこか分からない宙へと差し伸べる。


「私の家族や同胞らは遠い故郷の星に残してきたままさ…」


まるで芝居がかって阿呆くさい口調で言う。


「おい。こっちは真面目に聞いてんだぞ」


苛立ちを隠さずに言いつつ、ちらりと隣の方に目をやる。


「だって山下は…」


言いかけたその時、隣のその当人が俄かにすっくと立ち上がった。

田中は思わず口をつぐんだ。

なぜなら、突然に立ち上がった山下絵里は、触れたら危険、と感じるようなオーラを身に纏っていた。


「…お、おい」


恐る恐る田中は声をかけた。


山下絵里は両拳を握りしめたまま、机を見下ろすように俯いていた。

垂れ下がった髪がさらりと揺れた。


「…もう、いいです」