「お前が休んでた昨日にこいつからとんでもないカミングアウトを聞かされた」


横目にちらりと当の人物を窺いながら言った。


「…お前とこいつは血の繋がった家族で、しかも兄妹なんだって?」


ずばりと問いただす田中の隣で、読書中の女子生徒、山下絵里はぴくりと肩を震わせていた。

いつも何があろうと動じることなく、きっと森の中で突然ヒグマに遭遇しても冷静に対処しそうなのに、やはり昨日から彼女の様子はどこかおかしい。



そして…、


「……兄妹?」


こちらも珍しく虚を突かれたような顔をしている。


「そうだ。俺ははっきりとこいつからそう聞いたんだが、てめぇはどうなんだ?
このことが正真正銘の事実だって言えるか?」


「……ふむ」


教師Aは思案深そうに顎に手を当てる姿勢を取った。


「貴様のようなチャラい輩が他人の家庭事情に興味を持つとは少々意外だが、そんな事を訊いてどうする?」


「その家庭の事情とやらに関係のない俺が巻き込まれているのだとしたら、気にいらねーからに決まってんだろ」


田中は腕を組み、普段は見せることのない真剣な表情で教師Aを睨み据えるように見ていた。


「俺には昨日の山下が嘘を言ってるようには見えなかった。

…だとすると、お前がこんな意味不明で馬鹿げた行動を起こし、今も続けているのは、お前達兄妹の間で何かあったからじゃねーのか」