山下はカードをしまいながら、そっとその目を伏せた。

遠くに誰かを想いやるように言う。


「…あの人は…私の兄さんは、頭が良くて、真面目でとても優しい人でした」


「…ふぅん」


田中は首筋を掻きながら相槌を打つ。


彼女の言い方は過去形だ。

当たり前だが、田中もそのことには気付いていた。


「だったら、なんでああなっちまったんだ?」





「……それは…」


言い淀み、それきり言葉が出てこない。



田中はまたまた深く首を傾げることになった。

さっきまでの単調な様子とまるで違う。


そう思いながら見ていて、そしてふとその異変に気付いた。


相手の様子が明らかに変。

雑誌の端をつまんでいた手が震えだしている。

肩も小刻みに揺れ始めている。



なんだかその様子は、内に秘めたる感情に震えているように見えた。




田中はそれ以上、山下絵里に声を掛けることは出来なかった。