教室に戻ってすぐに、桐生明梨に話しかける。


「桐生明梨。あなたのおかげで、答えにやっと気づけた。」


「え?」


「とりあえず聞いて。…ありがとう。」


あたしがお礼を言うと桐生明梨の席の周りの人は、目を丸くしていた。


きっとすぐに【あの黒澤紫苑がありがとうと言った】という噂が流れるだろう。


でもそんなのどうでもいい。


勘のいい桐生明梨は、すぐに合点した様子で話してきた。


「もしかして昨日の話?」


「うん。あたし気づいたの、あなたのおかげで。」


「そう…。それで?」


あたしは息を飲んで、その“答え”を小声で口にした。


「あたしは、ユウキ先輩のことが好き。」


わかったの。


ユウキ先輩のことが好きで、あたしは結城先輩に恋をしてる。


「ユウキ先輩に好きな人がいたのを聞いて、辛かった。優しくされるとドキドキする。ユウキ先輩の笑顔の理由が気になる。胸が苦しくて、いつも一緒にいたい。…これって恋なんでしょ?」


力説するあたしの話を黙って聞いていた桐生明梨は、小さく笑ってあたしの肩を軽く押した。


「昨日出したばかりの宿題、一日で終わらせるなんてあなた凄いじゃない。」


「そ、そんなこと」


「改めて宣戦布告よ、黒澤紫苑。私もユウキ先輩のことが好き。絶対に、絶対に譲らない。よろしくね、ライバル♪」


差し出してきた右手を強く握る。


あたしは初めて人を好きになった。


そして、あたしと桐生明梨は恋のライバルになった。


“初恋”


脳内の花言葉辞典で探すと、すぐに見つかった。


紫のライラック。


それはこの間、今度植えようとユウキ先輩と話していた花だった。