皆、先ほどのプリムラの亡骸を思い出し、脳内が“恐怖”に支配されている。



「腕が…腕がぁ……」



レイは羽交い締めされていた召使いの青年の腕を噛んだのだ。




青年の腕からは絶えず血が流れ、たちまち貧血状態になる。


「ゔぁ……」


青年は数歩よろめき、やがてどしんしりもちをついてその場に座り込んだ。


「殺せ……」


トレニアがワナワナと震える。


レイは逃げようと、長い廊下を駆け抜けていた。



「殺せぇ!!」




トレニアの衝撃的な言葉が、背後で聞こえる。





「わぁぁ!!」





叫び声をあげながら、必死に城内を彷徨う。




早く、逃げなければ殺される!




ドクドクドク!と、鼓動が速まり、“死”への恐怖が確実に迫る。



「どこだ!化け物めが!!」



咄嗟に廊下の隅にある大きな柱に身を隠した。


「どこだ!?」


スタスタと、レイがいるのを知らずに柱の前を走り抜けていく。


「ふぅ……」




レイが息を吐いたその時だ。



ガッ!!




腕を掴まれた。




「っ!?」


暗くて顔が見えない。



今度こそ捕まって殺されるのだろうか。


「だ…誰…?」


震える声で呟く。




「俺だよ!」


コツンと、拳で頭を小突かれる。

「……メア?」


目の前には兄弟…だった、メアの姿があった。



月明かりで、彼の青色の瞳が美しく輝いている。



「騒ぎは聞いた。逃げてるんだろ?」


「うん!」


こうなったら、メアにすがるしかない。
レイはメアの肩を掴んで言い放った。


「ごめん…母さんを殺しちゃった…」


メアが目を見開く。

「そんなこと…知ってるよ。」


メアが涙が零れるのを我慢して言う。

「母さんは死んだ…でも、レイはまだ生きてる。
これ以上大事な家族を失いたくないんだ…」



「メア…」


メアがレイの手を握る。

「俺が援助してやるから、城から逃げろ。分かったな?」



レイが頷く。


「行くぞ。」


二人は肌寒い大理石の廊下を駆け抜けた。