「まぁ、可愛らしい。」
西へ真っ直ぐ行った先にある森の奥深く。
古びた城で吸血鬼の一族は暮らしていた。
王の妻、リリィが、目の前の赤子の頬を指で突つく。
「名前は決めたの?」
クルリと振り返り、来客である狼人間一族のプリムラとトレニアに問いかけた。
「えぇ。」
プリムラが優しい笑みを浮かべる。
「どんな名前?」
リリィが子供のように両手を合わせ、目を蘭々と輝かせていた。
「赤色の目の子がレイ、青色の目の子がメアよ。」
そう答えるプリムラの隣りでトレニアは「もっと男らしい名がよかったのだがな…」と、ぶつくさ呟いていた。
「レイにメア…素敵な名前!」
リリィは、両手で二人の赤子を抱き上げ、くるくると回り始めた。
「危ない!」
トレニアが慌てて座っていたソファから立ち上がる。
「ほんと、リリィは無邪気ねぇ…」
プリムラはそんなリリィを優しい目で見つめていた。
「ごめんなさいねぇ…こんな大事な時に主人がいなくて…」
リリィが苦笑いを浮かべる。
「大丈夫よ。リリィに会えただけで幸せだわ。」
無邪気で、子供のようなリリィに対し、プリムラは常に冷静で落ち着いていた。
「あ。雪…」
窓に目をやると、雪が降り出した。
「すぐさま銀世界になるさ。」
トレニアが鼻で笑う。
「あら、キザなこと言うわね。」
それを見てプリムラが微笑む。
「リリィは子供を産まないの?」
「えぇ。そろそろイブが神の子を産んでくれる頃だと思って…」
リリィが悲しそうに呟く。
「この代で妃になれたことはとても幸せだと思っているわ。神の子の母親になれるんですもの。」
トレニアが顔を顰める。
その場の空気が一気に暗くなる。
「じきに産むと思うわ。イブは気まぐれじゃないものね。」
プリムラが優しくそう言うと、リリィはすぐさま笑顔になった。
「そうね!待つわ。私。」
「その調子よ。……あらもうこんな時間。そろそろ戻らさせていただきますわ。またうちにも来てくださいね。」
プリムラとトレニアが立ち上がり、一人ずつ赤子を抱きかかえる。
「そう!またレイとメアを見に行くわね。」
リリィはまたトレードマークの明るい笑顔で、夫婦を見送った。
外には雪が積もっていた。