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兎にも角にも着替えぬ事には始まらない。
…と、言ってもさ。何着て出掛けたら良いのか分からないんだよね、これが。
だって普段制服じゃん!迷う余地もなく制服一択でちゃっちゃと着ればいいだけじゃん!

でも流石に日曜日にまで制服で挑むのはちょっと無しかと我ながら思う。
このペースじゃ365日間オール制服って事になりかねないよ。
まぁそれはちょっと遠慮したいと思ったので、ノーマルに普段着で外出に望む事にした。



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数分後ーーーーーー





「これでいいのか? ねえオカンーーー
……良いや。よっし、これで行こ!」


お母さんを召喚して評価を頂こうかと思ったけど、一階から聞こえてくるけたたましい笑い声を聞く限りおそらくオカンはテレビを見るので忙しいのだろう。呼ぶのはやめておく方がきっと上策だ。


カッターシャツにネクタイ、長袖フード付きロングパーカーにレギンスズボン。



Vサイン、親指を立ててみる、セクシーポーズ。

実に多種多様なポージングをビシバシ決めてみるが…いずれも導き出される結論は一つ。


この服装は、絶対に暑い。
季節感が皆無である。

近頃放置し過ぎたせいで伸びに伸びた後ろ髪と目に掛かりそうな前髪の所為で相乗効果で暑苦しく見える。
この服装はアウトだ、とファッションにとことん鈍い私でも分かった。
でもまぁ元よりファッションとは無縁な人生を歩んで来たわけだし、今更どうでも良い事だった。
特に人の目が気になると言うわけでも無し。ならば如何なる姿形を取ろうが私の勝手、俗に言う女子力とは無縁な生活を貫き通そうではないか!
私は文字通り、綺麗に開き直った。
服やアクセサリーなんてやたらめったら身に付けたからと言って良さが出るとは限らないし。



『プークスクスはいはい、言い訳乙。』

!!
誰だ今乙とか言ったの!しかも笑いながら!誰!



…あ、幻聴だったっぽい。
何か近頃ホント自分末期だと思うよ。
今は尚更だ。
今日は大切な用事があるからしてこんな風に四苦八苦しながらも着替えと言う大義をすっぱりと果たしたのではないか。
そろそろ家を出なければ帰宅も遅くなるばかり。
さっさと行って帰ってくる、これに限るだろう。

腹に力をグッと込め、ガッツポーズを一つ。
気合を一つ入れた後鏡に背を向けて机へと向かい、既に充電満タンになったスマホと携帯音楽プレーヤーをUSBコードから解放、パーカーのポケットへと滑り込ませた。
自室のドアへと向かう途中で危うくもやっと財布の存在に気付いてそれも慌ててポケットへ。
最後に思い出してリモコンを探り出し、働き尽くめのエアコンに休息を与える。


これで思い残す事は何も無い
私は一つ頷いてからドアノブへと手を掛け、それから外の暑さを思い少なからず憂鬱を感じながら寸の間躊躇し、
最終的には任侠よろしく潔くドアノブを捻った。