「…っぶ、げほっ!けほ、ぐ……っかは… …ぅえ。」


鳥肌が立ちそうな程エアコンの効いた一室の中、この部屋の住人である幵坂 駿 ( ケンザカ ハヤセ ) はグラスを手に、激しく噎せ混んでいた。
グラスの中身は至って平凡な麦茶だ。
駿はもっさりとした無駄にボリューミーな前髪をかき分ける事もせずに狭い視界から細めた目を覗かせた。

エアコンに加えて、首を振りフル稼働する扇風機。
耳に片方だけぶら下げたイヤホン。
何やら賑やかな音を部屋中に散らすテレビ。

まさに現代技術に塗れた部屋の隅で小さく丸まって目を閉じ、ようやく収まった咳に安堵すれば目の前の机にグラスを置き、
背後に控えるベッドへと頭をもたせ掛ける。そしてそのまま目線のみを滑らせて窓へと向けた。
外にはただただ青い空が広がっている様で、駿はその鮮明さに目がチカチカするのを感じた。

季節はとっくのとうに夏。
世間も、辺りに漂う空気までもが茹だる様な熱に熱くほだされている。
今日は日曜日。普段ならばそんな浮世の情勢など気にも留めずに一日中愛しの我が家で快適な休日を過ごすはずだった、のだが。


(( そろそろ行かなきゃなぁ……。))


時計を見れば、時刻は午後一時半に差し掛かろうという所。
視線を斜め下前へと戻し、そこに映るクリアなPC画面に向かって一人笑い掛ければ、先程まで執筆していた創作小説をキリの良い所まで書いてしまってからEnterキーを押す。
カチッと小気味良い音を立てて操作を承諾してくれたキーボードに満足した所で
"よいしょっ!" と小さく声を上げながら勢いよく立ち上がった。

そう、今日はいつもと違って、予定があるのだ。
叶うのならこのままずっと引きこもって居たいのだが、(※二回目
何せ大切な用事なのだから仕方が無い。
このクソ暑い時期だ。幾ら日光が疎ましいと言えど、全く当たらずに生きるのは不可能である事だし。