慎爾はあやめちゃんを助けて死んだらしい。
僕はその時、塾に行っていた。
道路に飛び出した綾女ちゃんを
慎爾が庇ったって。
綾女ちゃんは自分を責めているみたいだ。
この間、廊下を走っていく綾女ちゃんを見て
嫌な予感がして、夢中でおいかけた。
案の定、彼女は泣いていて
ついには屋上の手すりに手をかけた。
僕は必死だった。
綾女ちゃんに死なれたら
僕が生きていけない。
なによりまた慎爾に綾女ちゃんにを
とられてしまう。
それはいやだ。
僕は彼女の名前を呼んだ。
綾女ちゃんはきづかなかった。
慎爾の一人称は「俺」
慎爾は彼女のことを「綾女」と呼ぶ。
それさえわかれば
僕が慎爾じゃないって
すぐわかるのに…
僕はたぶん
心のどこかで気づいてほしかったんだと思う。
僕は慎爾じゃなくて新一だって。
でも、それさえもわからないほど
綾女ちゃんは動揺していたし
彼女は慎爾を求めていた。
それがわかったいたから
綾女ちゃんが慎爾に告白したとき
そこまでショックを受けずにすんだ。
このまま慎爾のふりをし続けても
別に良かっただろうけど
なんのために彼女を追いかけたのかを
思い出す。
綾女ちゃんに新一という人間を
知ってもらうため。
綾女ちゃんの中から
消えない兄、慎爾を
消すため。
だから、僕はホントのことを告げたんだ。
結局、彼女の中には慎爾がいるんだ。
当分綾女ちゃんの中から
慎爾は消えないのだろう。

