「綾女!おはよう。」

高校3年生の始業式の日。

「おはよう、詩織。」

「おはよう、児玉さん。」

親友に挨拶したつもりが

もう一人いた。

「あっ。おはよう。水崎くん。」

そうだった。

二人はバレンタインデーに

両思いになって

今、付き合ってるんだった。

綾女の隣は私だけのものじゃ

なくなってしまった。

それが少しだけ悲しくて悔しい。


新しいクラス表が掲示される。

「綾女、私たち離れちゃった。」

私はB組。

綾女はA組だ。

「ほんとだね。残念。」

綾女も少しガッカリしてくれている。

でも、綾女は少しだけ嬉しそうだよ。

ずっと一緒にいたからわかる。

綾女はそんなにへこんでいない。

私ほどは…

なぜなら…

「綾女ちゃん

そんなにおちこまないで。

僕は同じクラスだよ。

それに児玉さんにも

会いに行こうよ。」

そう。

水崎くんは綾女と同じA組だった。

「うん。

新一くんと同じなのは

すごく嬉しい。」

綾女が私の知らない女の子の顔をする。

最近、綾女がとっても遠く感じることが

多くなった。

彼氏ができたからなのか

それはどうなのかわからない。

でも、綾女は更に可愛く美しくなった。

綾女は乙女になって

私の知らない顔をして

水崎くんに微笑みかける。

きっと水崎くんにしか見せない

綾女の可愛い顔がある。

それがとてつもなくつらい。

男の子に嫉妬なんておかしいけど

私にとって

綾女は友達以上親友以上兄弟、恋人以上だったから

本当に恋人をとられた気分になってしまう。

親友の幸せを祈れないなんて

私は世界で一番最低な親友だ。

綾女。

私のことなんて

どうでもよくなっちゃった?

私より

水崎新一の方が大事なの?

私たちの今までの絆なんて

そんなもんだったのかな?

ぎゅっと下唇を噛んでいた。

悔しいけど

こんなこと綾女に言えない。

綾女は優しいから

また一人で抱え込んでしまう。

親友の私が綾女を苦しめちゃいけない。

でも、二人を見ているのが

すごく苦しくてつらいの。

だって

二人がお互いをすごく思いあっているのが

手に取るようにわかるから

私は思わず二人に背を向ける。

「あれ?詩織?どこ?」

綾女の声が後ろから聞こえる。

たくさんの生徒が

クラス表をみにくるから

すぐに生徒の波にもまれて

私から綾女が見えなくなった。

「ごめんね。綾女。

でも、私、二人を素直に祝福できないよ…」

まばたきをすれば

今にも雫が落ちそうなくらい

瞳に涙がたまっていく。




私の新学期は

こんな風にはじまった。

これから起こる

一人の男の子との出逢いなんて

露とも知らずに…