カミングアウト事件から2日がたった。

その日の放課後。

「綾女。」

クールで優しい声が私の名前を呼ぶ。

「理央…」

その名前を呼んだのはいつぶりだろう。

あの衝撃の告白のあと

私は逃げてから

ずっと理央を避け続けていたから。

大好きだった理央に

私は酷いことをし続けてきた。

「久しぶりだな。」

そういって理央は優しく切なく笑った。

「うん。ごめんね。」

「なんで綾女が謝んだよ。

俺、綾女の答えなんてわかってたよ。

気持ち伝えたかっただけ。」

そういうと

理央は何かを思い出したように

私に問いかけた。

「ただ、1つ気になることがある。」

「なに?」

「綾女が好きだったのは水崎慎爾だろ?

でも、クラスのあいつは水崎慎爾じゃない。

綾女はそれを知ってたってことだよな。」

「うん。」

「やっぱり死んでも水崎慎爾が好きか?」

その問いに思わずうつむく。

「綾女?」

「慎爾くんのこと大好きだった。

慎爾くんさえいれば何もいらなかった。

だからいっぱい周りの人に

迷惑をかけて、傷つけた。

理央のことも傷つけた。

でもね。

私は最低の人間。

今、好きなのは

慎爾くんじゃなくて…




新一くんなの。」

私の瞳から涙が流れ落ちた。






「別にいいんじゃない?」

理央の第一声は意外にもその言葉だった。

「えっ?」

「最低だっていいじゃん。

その気持ちに嘘はないんだから。

逆にムリして

水崎慎爾が好きだなんて結果にしたら

水崎慎爾にも水崎新一にも

綾女の気持ちにも失礼だ。

大切なことはちゃんと伝えないと

いつかきっと後悔する。

それなら

本当の気持ちに嘘つかない方が

きっと誰にたいしても

誠実にもなれるだろ?」

理央の一つ一つの言葉が深くて

思わず私は聞き入っていた。

「愛に嘘だけはつかないこと。

せめて愛だけには正直に生きること。

約束してね。綾女。」

理央の優しくて温かい

大好きだった瞳が私だけをとらえた。

「うん。ありがとう、理央。」

今までのわかだまりが

一気に流れ落ちた。

大好きだったよ。理央。

今思えば

理央は私の初恋だったんだね。

初恋は実らなくて苦しいって

皆が口を揃えていったけど

私の初恋は

幸いにも

とっても楽しくて嬉しかった。

理央、本当にありがとね。


私たち幼なじみ二人だけを

真っ赤な夕日が

温かく照らしていた。