「えっ?嘘でしょ。」

突然のカミングアウトに

教室中が騒ぎ立てる。

私は教室の前で立ち止まってしまった。

新一くんが

自分の正体をばらしていたから。

「やっぱりね。」

隣から声がする。

「茅野くん…」

彼は慎爾くんの親友の茅野和音くん。

「どういうこと?」

「工藤ならわかってたんじゃねぇの。」

茅野くんは冷たい視線を向ける。

「えっ?」

思わず動揺する。

でも、茅野くんの言葉は

私の予想とは違っていた。

「工藤なら慎爾が今までと

なんとなく違うってわかっただろ?」

「いつも前に出て

積極的だった人間が

いつもニコニコ笑って

席にずっと座ってる人間になるか?」

思わず首を横にふる。

「慎爾は慎爾なのに

別の誰かが慎爾になってたなんて

許せねぇよ。」

茅野くんは下唇をかんだ。

「工藤はあいつが誰かわかるか?」

私は1つ頷いた。









「慎爾くんの双子の弟の水崎新一くんだよ。」





「そっか。

じゃあ、俺らはあいつの弟に騙されてたってことだよな。」

茅野くんは鼻で軽くわらった。


茅野くんの寂しげな笑いに

私は茅野くんがどれだけ苦しんでいたのかを

強く悟った。

慎爾くんなのに

慎爾くんじゃない感じ。

それは親友の茅野くんじゃないと

わからない感覚。

でも、周りには伝わらない。

そんな自分との葛藤に彼は

ずっと耐えてきた。

でもね。茅野くん。

「苦しんでるのはみんな同じ。

茅野くんと同じくらい

新一くんも悩んでたよ。」

彼の笑顔の裏にはいつだって

罪悪感が溢れていた。

「慎爾くんが死んだって

受け入れられるようになったのは

彼のおかげだから。

私は新一くんを恨んだりしない。」

「それは工藤が慎爾の正体を

知ってたからだろ?」

「もちろん。それもあるよ。

でも…教室を見て?」

茅野くんが教室に目をうつす。

「慎爾くんに弟がいたんだ。にてるね。」

そういって珠理奈ちゃんは笑っている。

「怒らないの?」

「どうして怒らなきゃいけないの?」

「だって僕は皆を騙してきたんだよ?」

「新一くんがいてくれたから

この期間、死んだはずの慎爾くんは

生きていたよ。

新一くんのおかげで

慎爾くんはこの何ヵ月も生きれたんだから。

私が慎爾くんだったら

素直にありがとうって言いたいな」

珠理奈ちゃんはそういった。

「珠理奈の言う通り。」

そういったのは

珠理奈ちゃんの親友の飛鳥麗蘭ちゃん。

「ありがとう。

新一くんが慎爾でいてくれたおかげで

すごく楽しかったよ。」

二人だけじゃない。

クラス皆が微笑んでいる。

「私、ムリして新一くんのこと

許さなくていいと思う。

だって茅野くんが言ってること

間違ってないから。

でも、いつか

あなたが彼を許せる時がきたら

そのときは

新一くんに笑いかけてあげて。」

一瞬難しい顔をした茅野くんだったけれど

「わかった。

あいつ、慎爾の弟なんだ。

悪いやつなわけないよな。」

そういって茅野くんはにこりと笑った。