ガラッとドアをあける。

「おっ、お待たせ。」

新一くんはホウキを持って

もう掃除をしていた。

「なんか久しぶりだね。」

そういってあなたは笑う。

あなたの笑顔を真正面から見るのは

いつぶりだろう。

あの幸せだった日々に

当たり前だったことが

今では苦しいくらい

幸せだとわかる。

「ささっと終わらせちゃおっか。」

そういって新一くんはちりとりを持ち出す。

私は無言のまま

ひたすら手だけを動かした。

だって…だって…


ただ次の瞬間

「いやっ!」

「綾女ちゃん!」

雑巾のしぼりきれていない

ポタポタと落ちた雫に滑ってしまった。

でも、どんなに待っても

頭はなぜか叩きつけられない。

恐る恐る目をあけると…

「大丈夫?綾女ちゃん。」

彼の端正な顔が目の前にある。

私は新一くんに抱き留められていた。

「綾女ちゃん。」

「なっなに?」

「なんでないているの?」

そう。

私は泣いていた。

大量の雫を身体からはきだしていた。

幸せだった日々を思い出すたびに

私はいつだって泣いてしまった。

あなたが好きだって

思いしるたびに

私は後悔し続けた。

あなたにもう一度笑いかけてもらえたら

私はそう願ってしまった。

「ごめんなさい。なんでもないから。」

彼からゆっくりと離れる。

彼の温かいぬくもりから離れる。

それだけでとても寂しい。

「ごめんね。

僕と空き室掃除なんて

迷惑だったよね。」

新一くんは切なげに笑う。

「えっ?」

「咲田くんっていう彼氏との

時間が壊されて

最悪だって思ったよね。」

違う!そんなことない。

そう言いたいのに声が出なくて…

「でもね。

僕はこれが最後でいいから

綾女ちゃんと話したかった。

綾女ちゃんと時間を共有したかった。」

新一くんはゆっくりと立ち上がる。

「短い時間でも楽しかったよ。

もう夢の時間は終わりにしよ。」

「なんで?なんでこんなことしたの?」

最後の力を振り絞って出た言葉。

私の知りたいあなたの気持ち。

「そんなの決まってんじゃん。」

あなたは教室から背を向けて

小さな声でこういった。











「綾女ちゃんが今でも好きだから」

もう一度涙がこぼれた。

もう言葉なんてでないくらいに


新一くんは振り返らずに

教室をでていった。