「好き?」
彼の言葉をそのまま繰り返す。
「私、新一くんのことなんて知らないよ?」
慎爾くんに弟がいることさえ知らなかったのに
「僕は慎爾が綾女ちゃんを知る前から
綾女ちゃんのこと知ってたよ。」
それってどういうこと?
そう聞こうとしたら
屋上のドアがガチャリとあいた。
「綾女?
こんなとこにいた…」
詩織が私を探しにきたみたい。
詩織は新一くんの顔を見て絶句した。
「水崎くん?
あんた、生きてたの?」
誰だってそう思うと思う。
だって新一くんは慎爾くんに瓜二つだから。
でも、ちゃんと訂正しなきゃ。
これじゃあ、あまりにも新一くんが可哀想だ。
「あのね、詩織…」
「うん。奇跡的に生き返ったみたい。」
新一くんは私の言葉を遮って言った。
「キャー!スゴイ!綾女、よかったじゃん。」
詩織がわたしのことのように喜んでくれて…
でも、私はわからなかった。
新一くん。
なんで慎爾くんのふりなんてするの?
そのあと
詩織は気をきかせてなのか
ごゆっくりと屋上を出ていった。
「新一くん。」
「何?」
「なんで慎爾くんのふりなんてするの?
明日になればすぐばれる。
だって私と慎爾くんは同じクラスなんだよ?
慎爾くんがいないなんて…」
「バレないよ。
慎爾が死んだんじゃなくて
新一が死んだことにすればいい。」
耳を疑った。
「何いってんの?
そんなことできるわけないじゃない。」
「できるよ。」
「どうやって?」
「そのままだよ。
僕は明日から慎爾として学校に行く。
僕らは似てるからバレない。」
「そんな…
そんなことしたら新一くんの友達が悲しむ…」
「僕に友達なんていない。」
新一くんは吐き捨てるように言った。
「僕に友達がいたらどんなに綾女ちゃんが好きでもこんなことしない。」
「勝手だけどもう決めて行動してるんだ。」
私は動揺を通り越して怒りが沸いてきた。
パーン。
気づけば私は新一くんに平手打ちしていた。
「イタッ。綾女ちゃ…」
「ふざけないで。」
私の瞳から涙が溢れてきた。
「慎爾くんは1人しかいないの。
簡単に慎爾くんになるなんて言わないで。」
「新一くんがなる慎爾くんがいるぐらいなら
今のままでいい。
この世界に水崎慎爾くんは彼、1人だけ。
私が好きな慎爾くんも彼、1人だけ。」
涙が止めどなく溢れて止まらない。
わかってる。
ひどいことを言ってるのはわかってる。
新一くんを傷つけてることもわかってる。
でも、まるで慎爾くんの変わりはどこにでもいるよ。って言われてる気がした。
私が愛した優しい水崎慎爾くんは1人しかいない。
彼の変わりなんて存在しなあ。
たとえ、顔が瓜二つの双子だったとしても。
「二度とそんなこと、言わないで。」
私は新一くんを見ることなく
屋上から出ていった。

