私がなんでそんなこといったのかは
正直、わからない。
でも、その言葉は私の口から溢れ落ちた。
新一くんは目を大きく見開いた。
「本当に知りたい?」
私は深く頷く。
新一くんはゆっくりと口を開いた…
「僕がはじめて綾女ちゃんに会ったのは
中学1年生のとき。
場所は中学校の…屋上。
僕は相変わらず一人で
クラスの中心人物だった慎爾が
うらやましかった。
まぁ、それは今もだけどさ。」
新一くんは切なく笑った。
きっと彼は誰よりも
慎爾くんが大事だったんだ。
胸がズキンと痛む。
「生きる意味なんて僕にはなかった。
友達も守りたい人もいなかった。
家族だって僕より慎爾の方を可愛がってて…」
「死んだら全てが自分の思い通りになる。
僕はバカだからそんなこと本気で信じてた。」
「屋上の手すりに手をかけたとき…
君が僕の腕を掴んだんだ。」
パンドラの箱が開かれていく。
新一くんはとても幸せそうな顔で
パンドラの箱を開けていく。
「死んだらダメだって。
これから先、いいことがあるから
それを経験せずに
死ぬなんてもったいないって
泣きながら訴える君が
これから先、いいことがあったとするなら
それは今だって
君に会えたことが
僕の人生の唯一の宝物だって。
そう思えた。
これから先、いいことなんてなくたって構わない。
君に会えただけで僕は充分幸せだって。」
新一くんは嬉しそうに笑いながら
涙を流していた…
「綾女ちゃん、泣いてくれるんだね。」
新一くんの言葉ではっとした。
私も泣いていた。
思い出した…思い出したんだよ。
君の手の温もりが
今から死のうとしてる人の
温かさに思えないほど
君の手のひらがあったかくて
優しくて
あのとき、あなたに死んでほしくないって
心から思った。
あの、中学1年生の初夏。
あなたを救った手のひらが
今、あなたの力になるのなら
私はまたあなたを救いたいと思った。
「話してくれてありがとう。」
私は新一くんに微笑みかけた。
新一くんが微笑みかえしてくれた。
優しくてあどけない
でも、どこか切ない笑みに
私は彼の幸せを一心に願う。
どうか彼が幸せになれますように
それが、私の…
ーーー第2の恋の始まりだった。

