着いたのは
使われていない教室だった。
少し古風な香りが落ち着く。
「綾女…」
理央が口を開いた。
理央の声が切なげで真剣で少し驚いた。
「聞いたんだ。
好きなやつがいるんだってな。」
目の前が真っ暗になった。
「な…なんで…知ってるの?」
思わずそんなことを口走っていた。
「…やっぱりか…」
静かになった。
沈黙が苦しい。
「水崎慎爾だろ?」
この沈黙を破ったのは
彼の名前だった。
ゆっくりとうなずいた。
「俺がずっと傍にいたら俺が一番だったか?」
ふいに理央がそんなことを言った。
「えっ?」
そんなことを言う理央の気持ちがわからない。
そんなのわからない。
確かに小さいときは理央が大好きだった。
理央が弱い私をいつも守ってくれたから。
そんな優しくて強い理央が
私の憧れだったのは事実だけど…
あれから10年以上たって
私の気持ちはいつの間にか
慎爾くんに移り変わっていった。
「…そんなの…わかんないよ…」
パタパタと涙がこぼれた。
慎爾くんが好きなのに…
慎爾くんがいなくなって…
新一くんが現れて…
理央が現れて…
ギュっと目を閉じると
雫が瞳からこぼれ落ちる。
次の瞬間…
ギュッ
温かいなにかに私は包まれた。
すぐに気づいた。
私は…
理央の腕の中にいた。
理央に抱きしめられた
という感触は後からやって来た。
「り…理央?」
「ごめん…
どうしてもあのとき傍にいれば…
って思っちゃうんだ。
そうすれば
綾女が水崎を好きになる前に
繋ぎ止めておけたかなって…」
理央が私を抱きしめる力を強める。
なぜかふりはらえなくて
しばらくの間、私たちは抱き合っていた。
「綾女…
好きだ。」
その言葉に思わず我に返った。
それと同時に授業の終わりのチャイムがなった
思わず理央を突き放す。
「綾女!」
理央に振り返らず
私はその教室から飛び出していた。
私はまた逃げ出したんだ。

