「失礼します」

今を時めく若手俳優が何の用かと、若干不思議に思いつつも校長室のドアを開ける。

松澤先生はというと、はたから見ても分かるくらいに緊張している。

校長室の中には校長先生と清水先生の他に、男の人が2人座っていた。

たぶん、鷲尾奏とそのマネージャーだと思うけど、2人ともわたし達に背を向けて座っているので顔は見えない。

「鷲尾奏さんに呼ばれて来たのですが」

わたしがそう言うと、2人のうちの1人が立ち上がった。

「『鷲尾奏さん』なんて他人行儀な呼び方はやめてほしいな、琴音」

「えっ……」

その声には聞き覚えがあった。

いや、聞き覚えがあるどころではない。

いつも電話で聞いている。

「義徳……」

松澤先生から名前を聞いたときに気づくべきだった、苗字を音読みにしただけの芸名に。

目の前にいたのは、長い間再会を待ち望んでいた幼馴染み、奏義徳(カナデ ヨシノリ)だった。