「わたしは、特に予定はありませんが、好きな俳優さんが出るんですか?」

「そうなの、鷲尾奏(ワシオ ソウ)が主演なんだけど、わたし大ファンなのよ」

わたしの方へ身を乗り出して、松澤先生は言った。

クールな印象とは想像できないくらい目を輝かせている。

「鷲尾奏ですか?」

「今話題の若手俳優よ。年は安曇先生と同じくらいかな」

「そうなんですか……あまりテレビは見ないので、そういうことに疎くて」

「あら、珍しいわね」

「テレビ、特にドラマを見ると幼馴染みを思い出して、感傷的になってしまいそうで……」

「幼馴染み?」

「役者を目指してる男で、中学卒業以来会ってないんです」

「一人前になったら戻ってくる」って約束を守り続けているのか、たとえ盆や正月でもわたしの前に顔を出さない。

やりとりは専らメールに電話、そして年に数枚の葉書や手紙。

今頃アイツは元気でやっているのかな……