紺さんはあの惨劇を一瞥した後、すぐに私に見せないかのように窓を閉めた。


今はただ、無言でテーブルに頬杖をついている。
何を考えているのだろう……私を喰べる手段を練っているとか?
いや、でも、もしそうしようとしてもそれは私が安易に彼を家に入れたのだから自業自得ってことになるのか?



「……あははっ!なに百面相してるの」

声を上げて彼は笑う。
…どうやら私が考えていたことは考えていなかったようである。




「――――意外だった?」

「え?」

「さっき、男が泣いていたこと」


ふふっと笑みを漏らす紺さんは、相変わらず何を考えているのかわからない。
………遠まわしにモノを伝えるのが好きなのかな。


「意外……というか、今も良くわかってない、です」

「あー、敬語はいらないよ。この成りじゃあ敬語のほうが話しにくいでしょ?」

「まあ……でも一応年上そうなので」



敬語あんま得意じゃないんだけどなあ。

本当に…少年のように屈託なく笑うんだな、と少し感心しながら那智は話を続けた。



「正直、さっきの光景は理解できそうにないです」

「どこが?」

「その……紺さんが言う、悲しい、とか」


人喰いは、その衝動上に人を食い散らかす生き物だと思っていた。
今は紺さんという存在があるため、変わった人喰いもいるんだと認識していたが。

悲しいなんて感情を、彼らは持っているのだろうか。





「―――――――君は、俺が怖い?」




(冷たい眼差しが、私を射貫く)