――――――――その時だった。





『っいやあああああああ!!』



突如、耳につくような悲鳴が聞こえた。

那智は咄嗟に近くにいた紺を突き飛ばし、悲鳴が聞こえた場所に近い窓を勢いよく開ける。
想像してたのは、強姦とか窃盗だとか……普通の"犯罪"だったのだ。
なのに。



(そこにあった光景に、立ち竦んだ)





「………、あ、」




赤くて、目がチカチカする。
口を大きく上げて血飛沫をあげた女性と、その上に跨るヒトの姿をしたモノ。

ズル、と血や臓器の何かを啜る音がやけに響いているような気がする。





「あれが人喰い」



「…………っ、」

隣に並んだ彼はただ淡々と、この光景を言葉にしていく。
窓の縁に固まって、私は無言でいるものの内心気が気じゃないというのに。彼は余りにも冷静だった。



「ああやって、人の血を吸うことでしか生きられないんだ」

「………紺さんは、理性があるほうなんですね、」

「はは、俺はあまりお腹がすかないからね」


ちら、の横目で見ても彼は呑気に笑っていた。


(そうだ)


こんなに隣で笑っていても、さっきみたいにオムライスをおいしそうに頬張っていても、彼も今、"食事"をしている下の男と同じ生き物なんだ。

………彼は人間らしすぎて、この場にいても違和感をあまり感じにくいのかもしれない。