「蓮さん、診察の時間ですよ」
俺の病室に1人の看護婦が入ってくる。
はぁ、かったりいな。
「へいへい」
俺は、病室を出て診察室へと向かった。

朝比奈蓮17歳
世間的には高校2年生
だが、俺は高校に通っていない。
俺はー…生まれつきの心臓病だから。
みんなと同じものが食べれない。
みんなのように走れない。
そんなことしたら、俺死んじゃうし。
自分から、寿命は縮めたくないしな。
俺の人生、のこり少ないものだからー…。

ー7年前
「ねー先生、俺も走りてぇよ!」
小学校の運動会。俺は見学として参加していた。
「つまんなーい!走りたい」
「蓮くんはだーめ」
先生がニコッと笑う。
「少しくらいなら大丈夫だってば!!」
俺は先生に頼みこんだんだ。どうしても走りたくて。
みんなと同じようになりたくてー…。
そして、先生は言ったんだ。
とても小さな声だったけど、俺にはしっかり聞こえたんだ。

「20歳まで生きられないんだから…」

俺の耳に今でも残ってる先生の声。
ー20歳まで生きられない
俺は、そんなこと知らなかった。医者も親もそんなこと言わなかったから。
俺はその場にいるのが辛くなって、
「先生、パパたちのとこ行くね」
と言って、逃げ出した。
走れないから、早歩きで。
本当は親なんか来てなかった。先生に嘘をついたんだ。
そのまま、俺は教室に行った。
「はぁっ…はぁ」
早歩きしただけで、こんな状態。
「は…苦、しい」
教室の隅に腰を下ろし、息を整える。
誰もいない教室に俺の吐息が、響くー…。
「20歳まで、はぁ…い、生きれないっ…」
俺、死ぬの?
あと10年で死ぬの?
いや、もう少し早く死ぬの?
「うっ…」
涙が止まらなかった。
「うあーーーっ」

その時から俺は、自分の人生に希望をもつのはやめたんだ。

診察室に入ると、俺の主治医長谷川が座ってカルテを書いていた。
「おー蓮くん、調子はどうだい?」
「普通っす」
ならよかった、と長谷川は言って、俺の心音を聞く。
「うん、安定してるね」
「そうすか」
「相変わらず無愛想だな~」
はははっ!と笑う長谷川。
「もういい?」
「おう、廊下は走るなよ!」
走れねーっつーの。
診察室を出て、自分の病室に入ろうとしたとき、
「退院おめでとう、花ちゃん」
「ありがとーみんな!」
ナースステーションの前で、大勢の看護婦に囲まれている女の子がいた。
すごく華奢で小さい身体を覆うような、長い栗色の髪。
「でも花ちゃんが退院しちゃうと、寂しいわね」
「本当よ~遊びにきてね?待ってるわ」
「もちろんっ!遊びにくるよっ」
退院するんだ…いいな
俺も退院してーなー。
「あ!」
「は?」
女の子がじーっとこっちを向いていて、俺と目が合う。
そして、女の子が俺の方へと歩いてきた。
なんの用だ…?
「君、朝比奈蓮くんだよね?」
「え?ああ」
なんで俺のこと知ってんだ?
「やっぱりー!心臓病なのに身体がでかい人だ!!」
…は?
「ねえ、なんでそんなにおっきいの?!」
訳わかんねーな、おい。