「溜め息なんて吐いてると、幸せ、逃げるっスよ?」
香澄でさえ、もう随分と前に言わなくなった言葉だった。
顔を上げれば男子生徒が一人立っている。
ネクタイの色で新入生だとわかるのだが、先輩ではないかと思うほど存在感がある。
背が高く、紗綾は必然的に彼を見上げることになる。
少し長めの漆黒の髪がどこかミステリアスな雰囲気の少年だった。
香澄ならばイケメンと言うのだろうと紗綾はぼんやり考える。整った顔をしているが、やはり新入生らしい幼さが残っている。
「もう逃げるほど残ってないと思うから」
自分より不幸な人間は山ほどいるだろうが、自分より幸福な人間も山ほどいる。
だが、この仕打ちを不幸とするならば、もうどうにもならないのだと紗綾は思う。
「俺が幸せにしてあげよっか?」
明るいブラウンの瞳が悪戯っぽく輝き、紗綾はドキッとして、思考が一時停止した。
香澄でさえ、もう随分と前に言わなくなった言葉だった。
顔を上げれば男子生徒が一人立っている。
ネクタイの色で新入生だとわかるのだが、先輩ではないかと思うほど存在感がある。
背が高く、紗綾は必然的に彼を見上げることになる。
少し長めの漆黒の髪がどこかミステリアスな雰囲気の少年だった。
香澄ならばイケメンと言うのだろうと紗綾はぼんやり考える。整った顔をしているが、やはり新入生らしい幼さが残っている。
「もう逃げるほど残ってないと思うから」
自分より不幸な人間は山ほどいるだろうが、自分より幸福な人間も山ほどいる。
だが、この仕打ちを不幸とするならば、もうどうにもならないのだと紗綾は思う。
「俺が幸せにしてあげよっか?」
明るいブラウンの瞳が悪戯っぽく輝き、紗綾はドキッとして、思考が一時停止した。

