「俺には花ないのかな?」
「将也先輩……」

 急に背後から現れた将也に紗綾は驚いた。
 危うく花束を落とすところだったが、ようやく十夜が観念して受け取ってくれた。

「先輩には私達陸上部一同から、ちゃんとあげたじゃないですか。それでもまだ欲しいとかどれだけ強欲なんですか、あなたは」

 将也の後ろから香澄が顔を出す。すっかり呆れている。

「腹黒先輩がこっちに向かってると思ったから追いかけてきたの。油断も隙もないことで」

 香澄はまた棘を出す。
 紗綾は香澄がもしかしたら将也のことが好きなのかもしれないと思っていたが、全くそんなことはなかったらしい。
 どうやら、本当に将也が言うように嫌っているらしいということだった。
 しかしながら、それほど重い話でもなく、彼女は彼の腹黒いところが嫌いで、ストッパーになるべく敢えて反発していたらしい。