「多分、全部聞いたんだと思います。視たんだと思います。部長は人殺しじゃありません」

 噂を聞く度にそう思っていた。やっと真実がわかった。
 彼は今こそ解き放たれなければならない。彼女は望んでいる。
 自分にできるのかはわからないが。

「俺が死なせたも同然だ。わかっていて助けられなかったのは見殺しと同じだ」

 きっと、彼はずっと自分の罪を背負っていく覚悟なのだろう。だから、本当に人を殺したのかと言われて、そうだと答えてしまう。

「ミサキさんは部長を恨んでません。忘れてって」

 黙り込む十夜に紗綾は不安になる。やはり自分が踏み込んでいい問題ではなかったのだと思う。
 沈黙に堪えられず、自分を見る彼が次の言葉を待っているようにも思えた。