ついに部室の前に立って、紗綾は首を傾げる。
 おかしい。
 まずそう思った。
 嵐が趣味でかけている音楽が全く聞こえてこない。そういうこともあるが、人の気配がないのだ。誰の話し声も聞こえてこない。
 扉の窓は塞がれているが、天井近くの窓を見上げれば電気がついていないのがわかる。
 つまり、誰もいないということになるだろう。
 十夜も嵐も圭斗も、誰もいない。

 携帯電話を開いて少しガッカリしたのは圭斗からさえ何の連絡もないことだった。彼も遅れているのだろうか。
 けれど、自分から連絡する勇気はない。
 また放課後、とは言ったものの、十夜は頷いただろうか。
 否、ネックレスをくれただけだった。
 だとすれば、返せないまま持っていた合い鍵で入ってしまってもいいのだろうか。
 連絡をする勇気もない。引き返して、少し時間を潰してから出直すべきか。
 紗綾が逡巡した時、何か物音がした気がした。

 もう一度、何か物を叩いたような音が聞こえた。
 更にもう一度、それはあまりに不自然な音だった。
 行き止まりの部室の他にあるのは空き部屋だけだ。それなのに確かに音が聞こえる。
 部室からだという確信が紗綾にはあった。
 誘われるように合い鍵を差し込む。