「いらなければ捨てろ」
「そ、そんなことできません! 嬉しいです、大切にします!」

 こんな素敵なものを捨てるなんてとんでもない。
 紗綾は大切に掌で包む。

「あまりだ」

 文化祭で売れ残ったということだろうか?
 何か引っかかるものがあったが、今はそれが明確になることはなかった。

「凄く可愛いです。やっぱり部長は器用ですよね」

 一日中見詰めていたくなるような愛らしさがある。
 それは手作りならでは、ということか。
 十夜のイメージではないが、繊細さはやはり十夜なのかもしれない。
 いっそ、将来はこういう道に進むのもありなのではないかと紗綾は思ってしまう。
 おそらく一人きりになってしまえば、紗綾はずっとそれを見続けて、他人には見せられないような顔をするだろう。
 その小さな花一つには、頬を緩ませる力があった。

「じゃ、じゃあ、また放課後に。えっと、お邪魔しました」

 どんな顔をしていいかわからないまま、紗綾は部室を後にした。
 一時は来たくないと思ったこの場所に戻れることが嬉しかった。