「待て」

 立ち上がり、ソファーから離れようと瞬間、呼び止められる。

「手を出せ」
「ど、どっちのですか? 右ですか? 左ですか?」

 急に言われて戸惑う。
 一体、なんだろうか。

「どっちでもいい。さっさとしろ」

 十夜は苛立っていると言うほどでもないようだったが、紗綾は恐ろしくなって、さっと右手を出す。理由は単に利き腕だからだ。
 その手の上に十夜が何かを落とす。そして、すぐにそっぽを向いてしまった。

「これ……」

 恐る恐る見れば、全く予想外のものがそこにはあった。
 小さなピンクの石がついたシルバーのネックレスだ。
 小降りだが、繊細な花の形をしていて、普段アクセサリー類を付けない紗綾も人目で気に入ってしまった。