「あ、これ、泉水先輩から預かった文化祭の写真です」

 何か喋らなくては、とその封筒を差し出すものの、十夜は受け取ってくれない。

「いらん」
「そんなこと言わずに……」

 十夜は写真が好きではないようだったが、折角の思い出なのだ。紗綾としても彼には思い出を作ってほしい。
 サイキックとして、魔王と名付けられた生贄として、悪魔と言われようと、悪くないこともあったと、いつかは振り返ることができるようになってほしい。そう思っている。

「貴様は金を払ったのか?」
「え……? くれましたよ? 儲けてるからいらないって」
「あれは押し売りのプロだ。指の一本でも触れたら買わなければならない。それで毎年荒稼ぎしている」

 十夜がそんなことを言うとは思わなくて、紗綾は笑ってしまう。
 彼もサイキックであることを除けば普通の男子高校生であるのは間違いない。
 普段は寡黙だが、たまに口を開けば、笑わずにはいられないことを言い出す。
 本人は至って真面目に極普通のことを言っているつもりなのだろうが、普段ストイックな印象なだけにおかしく聞こえてしまうのだ。