部室の前に立てば、ここに来たのは間違いだったのではないかと思ってしまう。
 嵐がいる時にはかけられているヘヴィメタルはかかっていないらしい。静かなものだ
 しかし、よく見れば電気がついているようだった。
 遠慮がちのノックをして窺うが、反応はない。
 だが、紗綾は決心してそっと扉を開ける。

 部室内に十夜はいた。
 嵐の姿はなく、一人でソファーに座り、読書をしている。
 彼が読んでいるのはいつも難しく、今日もよくわからない分厚い本を手にしている。
 わかっているのはオカルト関係らしいということぐらいだ。

「黒羽部長」

 呼びかければ、彼は顔を上げる。
 出て行けとは言わない。
 だが、何も言ってくれないのは、そう言っているのと同じなのかもしれない。