「でも、今はなって良かったって思ってる」

 まさか、そんなことを言われるとは思っていなかった。感謝されるはずのないことだ。

「部長見た瞬間に手に入らないって悟ったけど。それでも、側にいたかった。苦しくなるってわかってたのに、今更、離れられないって思った」
「離れないよ」
「友達だから?」

 紗綾は頷く。友達は大切にしなければならない。だから、彼が苦しんでいるのをわかっていながら見放したりはしない。何も出来ないとしても、離れない。

「手に入らないのに?」

 そう問われると沈黙するしかなかった。
 わかってるっス、と圭斗が笑う。

「まあ、俺の願いを限りなくシンプルにするなら、側にいたい、っスからね……その点では、変わらない友情もありっス。大ありっス。むしろ、その方がいいかもしれないっスね。近すぎると遠慮がなくなって、どうしようもなく壊れてくってのを見ちまってるんで――あ、全部が全部そうって思ってるわけじゃないっスからね」

 圭斗の心の奥には海斗のようになるかもしれないという恐怖があるかのかもしれない。