「そういうことでしょ。黒羽を訪ねてきたのって」
「将也先輩にも話さないとと思って……」
「見ればわかるよ」

 そんなにわかりやすいのだろうか。
 紗綾が首を傾げれば、将也はクスクスと笑う。

「だから、俺のことなんて気にしないで、空気だと思ってくれれば。まあ、空気はなければ生きていけないから、俺は引き立て役として貢献できたかな?」

 それから将也は壁にそっと寄りかかった。

「それに、初めからわかってたんだ。望みがないって。だから、田端君は冷たかったんだろうね」

 俯きがちに独白のように将也が言う。
 香澄のことは紗綾にもよくわからない。なぜ、彼女が「やっぱりね」と言ったのかわからない。今の時点ではその真意を教えてもらえないようだ。