「手の打ちようがないと、身動きがとれないと、逃れられないと、板挟みだと、どっちにも転べないと、行き詰まりのところで進むのを止めただろう?」

 紗綾はただ流されていた。そうしていればいいのだと思っていた。何も考えなくていいと思っていた。
 だから、彼の存在によって光が見えたのは事実だと言える。
 これから進めるのかもわからないのに、もう進むしかなくなってしまった。

「だけど、もし、君が出口を見付けたら……」

 海斗は言いかけて止めたようだ。その声は小さくてよく聞こえなかったのだが。

「じゃあ、今日はありがとう。感謝はしてるよ」

 海斗は微笑む。それは作ったものより、いくらか自然に思えた。

「送ろうか?」
「結構です」

 これ以上、海斗といたところで互いに良い結果は生まれないだろう。すぐに一人になりたいという気持ちもあった。